- 書籍名:謎の香りはパン屋から
- 著者名:土屋うさぎ
- 出版社:宝島社
- 出版年月:2025年1月10日
- ジャンル:日本の小説/日常ミステリー
- ページ数:256ページ(単行本)
この作品は、第23回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した、パン屋を舞台にした〈日常の謎〉連作ミステリーです。
この本を選んだ理由はまさに書店で大々的に受賞作だと推されていたからで、良くも悪くも実際に体験してみないと気が済まない性格なので「どんなもんか見てみよう」と思って選びました!
物語のあらすじ
物語の舞台は、どこか懐かしい雰囲気の漂う、小さな町の一角にあるパン屋。
街の人々に親しまれているその店で働く主人公のもとには、日々ささやかな「謎」が舞い込んできます。
主人公はパン屋ならではの知識や経験を活かしながら、人々との出会いを通じてその謎を少しずつ解き明かしていきます。
作品の魅力
想像できるような細かい描写
想像力をかき立てる細やかな描写が、この作品の大きな魅力のひとつです。
地元の人々に愛されるパン屋が舞台となっており、情景が目に浮かぶように丁寧に描かれているため、物語の世界に自然と引き込まれていきます。
さらに、パンの仕込みや店舗運営に関する細かい描写もあり、それを手がかりに読者自身が“想像のパン屋”を思い描くことができます。
まるで自分の暮らす町のどこかにその店が実在していて、通りがかりに見たことがあるような、不思議な親しみを感じながら読み進められました。
パンの由来や豆知識
作中には、パンにまつわる由来や専門的な知識が随所に散りばめられており、読んでいるだけで思わず「へぇ」と声が出るような豆知識に出会えます。
たとえば、パンの名前の由来や、なぜその成形をするのかといったエピソードなど、日常で何気なく目にしているパンに対する見方が少し変わるような内容が盛り込まれています。
読み終える頃には、つい誰かに話したくなる“パントリビア”をいくつも手に入れているはずです。
パンが好きな人はもちろん、そうでない人でも知識欲をくすぐられる魅力的な要素として、物語にほどよいアクセントを加えています。
印象に残ったポイント
全体を通して特に印象に残ったのは、「パン屋」×「ミステリー」という組み合わせがとても新鮮だったことです。
私の中で「パン屋」といえば、日常的でほのぼのとした、リラックスできるような空間というイメージが強く、一方の「ミステリー」は、非現実的で緊張感があり、事件性や張り詰めた空気を感じるジャンルだと感じています。
その対極とも言える二つの要素が絶妙に融合した本作は、読み始めから最後まで新鮮な驚きがありました!
実際に読んでみると、パン屋の描写とミステリーのバランスは体感でいうと3:7ほど。
ミステリー要素がありながらも、全体にはパン屋らしいゆったりとした空気が流れており、
日常の中のささやかな違和感を丁寧に描き出している印象が残りました。
もちろん、どの要素を強く感じるかは読者によって異なると思います。
人によっては「これはミステリー寄り」「いや、日常の癒し系だ」と異なる解釈ができるところも、この作品の魅力だと感じました。
まとめ
『謎の香りはパン屋から』は、パン屋という身近で温かな空間を舞台にしながら、そこに散りばめられた日常の謎を描いた作品です。
登場人物たちの優しさや気持ちの変化、パンに関する豆知識、そしてほんのりと漂うミステリーの緊張感が絶妙に混ざり合い、読後には心がふわっと温まるような余韻が残りました。
私がこの作品を手に取ったのは、「このミステリーがすごい!」大賞の受賞作だったからです。
ですが正直なところ、読んでみると“本格ミステリー”という印象はあまり受けませんでした。
それでも、緩すぎず堅すぎない日常のちょうど良い部分を描いている印象です。
パンや人とのつながりが好きな方はもちろん、ミステリー初心者にもおすすめできる、優しくも味わい深い一冊です。
コメント