高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』

小説
  • 書籍名:おいしいごはんが食べられますように
  • 著者名:高瀬隼子
  • 出版社:講談社
  • 出版年月:2022/03/24
  • ジャンル:現代小説
  • ページ数:単行本162ページ

あなたにとっておいしいごはんとはなんですか?
大勢でテーブルを囲んでつつく鍋?金晩のひとり晩酌?
おそらくこの答えは一つには決まらないはずです。
そのなかでも私が大事だと思っているのは「食べたいものを食べること」です!
この作品は「食」をテーマに描かれています。
普段何気なく接しているテーマですが、改めて考えるきっかけがもらえると思います。

この本を読んだきっかけ

芥川賞受賞作品ということで興味をもち、当時はミステリーを多く読んでいたこともあり、タイトルからキャッチーでほんわかした作品なのかなと感じ購入しました! (この時は絵本のようなゆるふわを想像していました😅)

あらすじ

会社でそれなりにうまくいっている二谷、みんなが守りたくなる存在の芦川、仕事ができて頑張り屋な押尾。
同じ会社に務める三人の周囲をふくめた人間関係を食べ物を通して描かれている作品。

個人の感覚の違いや、好みについてを表現しながら進められる人間味溢れるストーリー。

作品のテーマや魅力

食と人間関係

タイトルにもある「ごはん」というテーマを中心に、人々が食を共有する場面での心理的な描写や、食事が象徴する親密さ・対立などが描かれます。 食事を通じて見えてくる社会的な階層や価値観の違い、個人のこだわりが人間関係にどのような影響を及ぼすかが見どころです。

食に関する概念

「ご飯はみんなで食べたほうがおいしい」「ご飯は残さない」といった一般的な価値観に対して、疑問を投げかけています。また、その疑問を抱く人物(二谷)目線で描かれているため、共感をベースで進められるのではなく、常に問いかけられているような感覚で読み進められます。

職場での葛藤と嫉妬

職場の同僚たちとの関係性が主軸となっており、特に女性を起点とした微妙な競争意識や暗黙の了解が丁寧に描かれています。 それによって生まれる葛藤が繰り返し描かれており、登場人物たちが持つ理想や期待と現実とのギャップが、共感を呼ぶ要素の一つです。

印象に残ったポイント

食に対するネガティブからの入り

タイトルから想像して「食」がコンセプトな上で、おいしいごはんを食べる喜びや幸福感がメインに出てくる話だと予想していました。 しかし、冒頭から「食」に対してのネガティブな考えからスタートし、この考えは終始変わることのないテーマだったので、勝手な予想ではありますがそこにギャップを感じました!
この入りのおかげで、二谷がこの後「食」に対してどんな気持ちの変化があるのか、前向きになってくれるのか…といった興味を切らさずに読み続けられました!

ごはんの細かい表現

全体を通してごはんに対する記述がとても多かったです。
食事の場でごはんをとりあげた内容になっているのももちろんですが、仕事中や会話の間などでも事細かにごはんに対する表現が添えられていることで、それを通して「この状況でこんなタイミングなんだ」といった想像につながり、会話や情景がイメージしやすいと感じました!
逆に、そのほかの描写については深く描かれていないので、「必要なのはごはんと人間関係のみ」「その他はご想像にお任せします」というイメージでした!

おわりに

2022年に第167回芥川賞を受賞したことで注目を集めた作品ですが、「食」という普段身近な普遍的な内容をテーマにしていることもあり、とても読みやすく映像として頭で浮かび上がるような内容でした! また、「食」を通して日常や人間関係を深く考えさせられるような作品でした!

私自身この記事を書くにあたってもう一度読み返しました。
単行本162ページの中編小説だったこともありとても読み返しやすかったのですが、
そのうえで・・・結末がもどかしいとも思いました。 二谷との押尾との別れのやりとり。 深くは語られていない最後のシーン。 これらに対する、二谷の気持ちが知りたいです、、、
もし、この作品を読んでみてみなさんなりの理解があれば、教えていただけるとありがたいです!

【ネタバレあり】推しシーン

自分の体を大切にしろ。という攻撃

終始「食」に対しての気持ちがネガティブな二谷には個人的には共感できなかった一方で、スーパーが閉店間際まで残業していた部分だけはとても理解できました! 私自身、前職では残業なんてあたりまえ。日付を超えるギリギリまで会社に残って仕事をしていることも多々あったため、当時の気持ちを思い返すと基本的な生活が疎かになるのはとても共感でき、そこに「ちゃんとした食事」「自分の体を大切に」なんて言われても「どうやってだよ!!」と苛立つ気持ちもありました。 仕事が乱れると「食」も乱れる。裏を返せば、「食」に幸せを感じられない時には何事も幸福に感じられないのかもしれませんね、、、

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